「ペイシェントハラスメント」について、アンケート調査を実施
事業場向け産業保健支援、医療人材総合サービスを提供する株式会社エムステージ(東京都品川区、代表取締役:杉田雄二)は、エムステージが運営する『Dr.転職なび』『Dr.アルなび』の登録医師のうち461名に 「ペイシェントハラスメント」に関するアンケート調査を実施しました。
■ 調査背景
2022年4月より、大企業だけでなく中小企業においても「改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)」が施行され、すべての企業においてパワーハラスメントの防止措置が義務化されました。その中には、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に関しても明記されており、事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい旨、また、被害を防止するための取組を行うことが有効である旨が示されています。医療業界では、患者等による暴言、暴力等の迷惑行為を「ペイシェントハラスメント」と呼び、各医療機関における対策が求められていますが、その実態はどのようなものなのでしょうか。発生時の対応状況とあわせて調査しました。
■ 調査結果のサマリー
〇ペイシェントハラスメントの実態について
・約7割の医師がペイシェントハラスメントを経験
・「治療方針・内容」に対するハラスメントがトップ
・ハラスメントの内容「暴言、怒鳴るなど言葉によるもの」が最多
〇発生時の対応について
・対応マニュアルが「示されている」2割を満たさず
・発生時の課題「対応方法がわからない」
■ ペイシェントハラスメントの実態について
1. 約7割の医師がペイシェントハラスメントを経験
診察を行う中で、ペイシェントハラスメントを受けた経験が「ある」と回答した医師は69.6%となり、約7割の医師がペイシェントハラスメントを経験している結果となりました。
2. 「治療方針・内容」に対するハラスメントがトップ
実際に受けたペイシェントハラスメントに関して「治療方針・内容」に対するものが最も多く(224)、「医師(自身)の言動」(102)、「待ち時間」(99)、「診断・検査結果」(91)が続く結果となりました。 その他「プライベートに関すること」や「病院設備に関すること」などの回答も見られました。
3. ハラスメントの内容「暴言、怒鳴るなど言葉によるもの」が最多
実際に受けたペイシェントハラスメントの内容では、「暴言、怒鳴るなど言葉によるもの」(286)が最も多く、次いで「居座り行為」(62)、「殴る、物を投げるなど身体的なもの」(49)が続く結果となりました。
〇 具体的なペイシェントハラスメントの内容(フリー回答)
・夜間救急外来に泥酔で運ばれてきた患者がおり、付き添いの友人が「お前ら、研修医だろ。お前らなんかに診察できるかよ」と暴言を吐きながら頭を叩いてくるような暴力行為も見られた。(40代/一般内科<訪問診療>/勤務医<非常勤のみ、フリーランス>)
・してほしい検査が正当な理由がありできないことを伝えたところ、不満を伝えられ数十分居座られた。(40代/消化器内科/勤務医<診療所・クリニック>)
・深夜に緊急でない疾患(いつももらっている薬の処方依頼)で来院したため、日中に来るように伝えたところ、キレて鞄を机に叩きつけた。机のガラス製マットが割れた。(50代/消化器外科/勤務医<大学病院以外の病院>)
・検査結果を元に今後の治療方針を話したが、患者は「わからないから適当なことを言っている」「バカにして」など言いだし、挙げ句暴力を働いた。(40代/人工透析内科/勤務医<診療所・クリニック>)
・外来で1時間半説明しても再度同じ説明を求められ、他の方にお待ちいただいていることを伝えたところ、大声で怒り出して恐怖を感じた。(40代/消化器内科/勤務医<診療所・クリニック>)
・一番ひどかったのは、いきなり首を絞められて壁に叩きつけられたこと。もうこの仕事はできないと感じた。(50代/耳鼻いんこう科/勤務医<非常勤のみ、フリーランス>)
・診断や治療に一切の疑いの余地のない結果が出ていたが、患者も家族も受け入れられず、医療者に攻撃的になることがある。(40代/呼吸器内科/勤務医<健診施設や老健など>)
・待ち時間が長いことで、診察室で沈黙、事務で暴言を吐く。(50代/耳鼻いんこう科/開業医)
・誠意をもって対応しても、理解していただけない。(30代/消化器内科/勤務医<診療所・クリニック>)
・予約を取る際に、カルテを見ただけで「パソコンばかり見て患者の目を見ようとしない」と言われた。治療経過の写真を撮るときに怒鳴られた。(30代/皮膚科/勤務医<大学病院>)
■ 発生時の対応について
4. 対応マニュアルが「示されている」2割を満たさず
勤務先でペイシェントハラスメントに関する対応マニュアルや、発生時の対応フローが「示されている」と回答した医師は18.7%となり、8割を超える医師が「示されていない」(48.9%)、「知らない・分からない」(32.4%)と回答する結果となりました。
5. 発生時の課題「対応方法がわからない」
ペイシェントハラスメントを受けたときの対応について、課題と感じたこととして最も多い回答が「対応方法が分からない」(138)という結果となり、「相談先があてにならない・機能していない」(134)、「相談先がわからない」(106)が続きました。多くの医師が、勤務先の対応フローが整備されていないことを課題に感じていることが分かりました。
■ 医師を守る「ハラスメント対策」
今回の調査では、医師の約7割がペイシェントハラスメントを経験し、そのうちの約8割の医師の勤務先で発生時の対応フローが整備されていない、認知されていないことがわかりました。ペイシェントハラスメントをはじめ、ハラスメントの発生は組織の生産性が低下するだけでなく、事業の悪化や人材の流出につながる恐れがあります。発生時の対応フローがしっかりと決められ機能していると、ハラスメントを原因としたメンタルヘルス不調を予防することができ、また、そこで働く医療従事者の安心感にもつながります。医療従事者がいきいきと働ける環境の整備のため、ハラスメント対策の重要性を改めて確認し、対応していく必要があるのではないでしょうか。
株式会社エムステージ 取締役産業保健事業部長
樋口 浩一 (ひぐち こういち)
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー、メンタルヘルスマネジメント検定Ⅰ種等の資格を保有。大手ヘルスケア・EAPサービス企業を経て、2023年より株式会社エムステージ取締役就任。23年以上、企業に対してメンタルヘルスケア、ストレスチェック、EAP、産業医紹介、健康経営の推進等のヘルスケア業務に従事。
■ アンケート調査概要
・「ペイシェントハラスメント」に関するアンケート
・調査対象:株式会社エムステージが運営する『Dr.転職なび』『Dr.アルなび』に登録する会員医師
・調査日:2023年11月14日~11月28日
・調査方法:webアンケート
・有効回答数:461
※引用・転載時には「株式会社エムステージ」とクレジットを明記下さい。
■ エムステージの『産業保健トータルサポート』
『産業保健トータルサポート』では、医師紹介業20年のノウハウとネットワークによる産業医や保健師の紹介・選任後の業務サポートをはじめ、リワーク支援サービスや、ストレスチェック『Co-Labo』、メンタルヘルス・ハラスメント研修、専門家相談サービス等で、企業の健康経営を総合的に支援しています。
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